先々週から家族と気まずかったようだ。

数週間から数ヶ月おきに、そういう関係になるという。

何年も繰り返して、最近ようやく思うらしい。このまま離散したら、自分には何が残るのか。

そして愕然とするんだって。自分が何も持っていないことに。そう。趣味がないって辛い。

だから決心したらしい。とりあえず、飛び出すって。それが先週の事だった。

出掛けに連れ合いと口論になり、心配そうな息子さんの視線を振り切るように玄関を出たという。

まるで絆を断ち切るような、悲愴な決心だったに違いない。新しい一歩のために。自由を得るために。

それでもカーナビをセットしている間は迷っていたみたい。目的地の到着予想時刻から逆算して1時間半かかるからだって。


それでも、とりあえず車を発信させて国道に出たころに、途中まで行って1時間で引き換えそうと思ったらしい。

帰りが遅くなるほど修復は難しくなるだろうし、とりあえず出る実績を作ったから満足出来たというところだろうか。

そう決心したことで、ひとり勝手に安心したらしい。都心へと向かうハンドルさばきは、さぞや軽やかだっただろう。


聖橋の手前で、1時間以内に出られそうな海辺を探したと言っていた。それで、カーナビの目的地が変わっていたのだろう。

出発から一時間ちょっとだったそうだ。夢の島公園を抜けて、新木場駅をくぐり、しばらく車を走らせて、正面に恐竜橋が見えたらしい。

金網のフェンスの向こうに、消波ブロックがあってすぐそこに海が見えらしいから、倉庫街みたいなバス通りまで出たのかもしれない。

あきらめて引き返す道すがら、あっちへこっちへと、ふらふらしていると、たくさんテントのならんだ広場が見えたそうだ。

おそらく、新木場公園だったのだろう。釣糸を垂れている人も見かけたといって満足そうだったので、目的は果たせたに違いない。


それから一週間、針のむしろに座らされているような毎日だったらしい。