明日、お連れ合いが息子さんと買い物に出掛けると聞いたとき、間髪いれず釣行を持ち出したという。

お連れ合いが、出発時刻を聞き返してきたというから、そのときの気持ちは、もう推して知るべきだろう。

まさに、事前の準備があったればこその好機だろう
。針山に耐えて既成事実を作ってきたことが、実を結んだと言えるかもしれない。

翌日は秋晴れの空の下、前週と同じく聖橋を渡って坂を下り、皇居を右手に芝浦ふ頭を目指したという。

大きな貨物船がゆっくりと旋回していくのを眺めながら針を垂らしていたそうだ。

ちょうど前週に、つり上げた魚を取り外していたお母さんと目の合った辺りだという。

左隣ではハンチング帽の男が、擬似エサを使って、投げては巻いて、巻いては投げてを繰り返していたようだ。

小春日和に目を細めつつ、眼前の砲台跡を見ながら、まだ釣果もないのに、近いうちにまた来たいと思ったのだとか。


小さなアタリに竿を上げてみると、小指くらいのシマハゼ掛かっていたらしい。

結局その後は、一度だけアタリはあったものの、エサだけ取られて、正午に引き上げたという。

二度目は一週間後だったというから、大した肝の持ち主だ。そうやって、幾度となく危機を乗り越えてきたのだろう。

驚いたことに、連れ合いも誘ったというから、それまでの一週間は何だったのだろう。

息子さんが町内会の催で、午後から遊びに出掛けてしまうから、どうしようかという流れだったらしい。

あっさり断られたけれど、暗に出掛けることのお墨付きを得たようで、早々に車を出したんだとか。

その日は芝浦を目指したという。前回よりも出発は遅かったらしいが、道中は順調で三時には目的地に着けたようだ。

公園の近くに駐車して、レインボーブリッジを見上げながら近づいていくと、結構な数の釣り人で賑わっていたらしい。

ちょうど親子連れが釣り上げた魚を針かから外そうとしていて、覗き込んでいたら、お母さんと目が合ったという。


その母さんが微笑みかけてくれたからなのか、五ヶ月前に初めて家族で行った釣行を思い出して、何だかほんわかしたそうだ。

その反対に、次に一緒に釣行出きるのはいったいいつなのか、心配になったとのことだ。

それでも、意を決して飛び出したのが功を奏したらしい。すんなりと受け入れられている気がしたという。

こうやって、独りで出掛けることを繰り返して、既成事実を作っていくことが狙いだったのだろうか。

以外にその時は早くきたらしい。